大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)909号 判決 1962年5月01日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人三宅厚三の上告理由について。

所論は縷々陳述するが、要するに、被上告会社大阪中央支社長矢内一郎が商法四二条にいう支店の営業の主任者に準ずるものと認められないとした原審の判断は、同条の解釈適用を誤つたものであるというのである。

しかし、商法四二条にいう「本店又ハ支店」とは商法上の営業所としての実質を備えているもののみを指称すると解するのを相当とするから、右のような実質を欠き、ただ単に名称・設備などの点から営業所らしい外観を呈するにすぎない場所の使用人に対し支配人類似の名称を付したからといつて、同条の適用があるものと解することはできない。保険業法四二条により商法四二条が準用される相互会社の場合も、叙上と事理を異にするものではないといわなければならない。原審が確定したところによれば、被上告会社は、保険契約の締結、保険料の徴収ならびに保険事故ある場合の保険金の支払をその基本的業務内容とするものであるが、同会社大阪中央支社は、新規保険契約の募集と第一回保険料徴収の取次がその業務のすべてであつて、被上告会社の基本的事業行為たる保険業務を独立してなす権限を有していないというのであり、右事実関係のもとにおいては、大阪中央支社は、被上告会社の主たる事務所と離れて一定の範囲において対外的に独自の事業活動をなすべき組織を有する従たる事務所たる実質を備えていないものであるから、商法四二条の支店に準ずるものではなく、したがつて、同支社長矢内一郎も同条にいわゆる支店の営業の主任者に準ずるものでないと解すべきであり、これと同趣旨に出た原判決は結局正当である。所論引用の当裁判所の判例は本件に適切でない。所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例